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大阪高等裁判所 昭和60年(う)236号 判決 1985年12月17日

被告人 山中康男

昭一二・二・一七生 会社役員

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六月及び罰金三〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人青木一雄、同益川教雄連名作成の控訴趣意書記載(ただし、主任弁護人において、控訴趣意第一のうち事実誤認の主張は撤回し、法令の解釈、適用の誤りの点は裁判所の職権発動を促す趣旨で主張する旨釈明した。)のとおりであり、これに対する答弁は、検察官山路隆作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

控訴趣意第二(原判示第一事実中、都市計画法違反の罪の罪数に関する法令適用の誤りの主張)について

論旨は、原判示第一事実中の都市計画法九二条七号、四三条一項違反の各所為は包括して一個ないし二個(工事を第一期及び第二期と分けた場合)の罪と考えるべきであるのに、原判決が建築物一棟ごとに一罪、合計一四個の罪が成立するとして併合罪の加重をしたのは法令の適用を誤つたものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから破棄を免れない、というのである。すなわち、同一罪名に触れる数個の行為を包括一罪として処断すべきか否かは、その数個の行為の日時及び場所の接近、方法の類似、機会の同一、意思の継続その他各行為の間における密接な関係及び法の規制目的などからその全体を一個の行為として評価することを相当とするかどうかを基準とすべきであるところ、本件一四戸の建築物の建築は、(1)いずれも都市計画法九二条七号、四三条一項に該当する行為である、(2)各建築物の所在は、京都市西京区大原野上羽町四〇番地の一塊の地上であり、場所的に極めて接近している、(3)原判決別表1~10及び同11~14の各建築物は、それぞれ第一期工事、第二期工事として同時着工、同時完成されているので、日時及び機会の同一性がある、(4)被告人はこれら一四戸の建築物を一度に建築する意図を有していたもので意思の継続性がある(ただ、第二期工事の着工までに建築地に擁壁を造る必要があつたため、外形上二つの工事に分別されているように見られるに過ぎない)などに徴し、更には市街化調整区域内における開発ないし建築については必ずしも一筆の土地、一棟の建物ごとに許可を受ける必要はなく、数筆の土地をあわせた一塊の土地或いは一塊の土地上に建築する数棟の建築物につき、その開発ないし建築が土地の合理的な利用が図られるかどうかを基準として(都市計画法二条)同法の各規定を勘案のうえ一つの許可を受ければ足りる場合がある(例えば、当初の共同住宅一棟と管理人用住宅一棟の合計二棟の建築計画につき、京都市長は一括して一通の都市計画法四三条の許可不要証明書を発行しており、これは許可についても数棟の建築物につき一個の許可で足りる場合があることを示すものに他ならない)ことからも、右各所為は包括して一罪(或いは二罪)と考えるべきである、というのである。

そこで所論にかんがみ検討するに、都市計画法四三条の許可は、同条及び同法施行令三六条一項、同法施行規則三四条の規定などに照らすと、当該許可申請にかかる建築物又は第一種特定工作物の敷地が法令に定める基準に適合するか否かなどについてなされるものであり、当該許可申請書には、その敷地の境界、建築物の位置等を表示した敷地現況図の添付が求められていること、そしてその敷地とは、関連法規である建築基準法施行令一条一号によると「一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物のある一団の土地」を指称するのであり、用途上不可分の関係にある場合を除き、一棟の建築物には各一個の敷地の存在が規定され、一敷地に用途上不可分の関係にない二以上の建築物の存在することは考えられないこと等に照らすと、右許可の申請はその各敷地を単位として各一個の建築物(但し、用途上不可分の関係が認められる数個の建築物はその数個)毎に個別に行われるべきものと認めるのが相当である。従つて、建築主は、市街化調整区域内で開発許可を受けた土地以外の土地に建築物等を建築しようとするときは、前示のごとく用途上不可分の場合を除き各一個の建造物(の敷地)毎に建築許可申請書を提出し、都道府県知事(又は指定都市の長)の許可を受けるべき行政法上の作為義務を課せられていることとなり、右行政法上の義務違反を内容とする都市計画法九二条七号、四三条一項の犯罪の構成要件は、その性質上同種の行為が反復される集合犯(常習犯、職業犯、営業犯等)の範疇に属するものということはできないし、各建造物の敷地毎に確認を受けさせる必要のある規制の目的そのものからみて、所論の行為の接続、意思の包括かつ継続性その他の点は右義務違反の包括性を認めさせる事由とはなし難いこと等にかんがみ、同罪の個数は結局その個々の義務違反を単位として各別に一個の罪が成立するものというの他はない(なお、所論のいう許可不要証明書は、共同住宅一棟及びその管理人用住宅一棟についてのものであつて、これらは相互に用途上不可分のものと考えられるから、これの許可不要証明書が一通のものとして発行されるのはその性質上当然のことであり、これをもつて所論の論拠とすることはできない。)。してみると本件について各建築物ごとに一四個の罪が成立するとした原判決に所論の法令適用上の誤りはない。論旨は理由がない(建築基準法違反の罪の罪数に関する昭和三八年九月一八日最高裁判所決定参照)。

(控訴趣意書第一の職権判断を求める点について)

弁護人は、原判示第二の事実中、(1)各工事施行停止命令は、いまだ緊急の必要がなく、建築基準法九条二項から六項までに定める手続によることができたのにこれによらずして発せられたものであるから、その要件を欠くものであり、(2)第二期工事(原判示第二事実別表11ないし14の建築物関係)に対する停止命令は、形式上の建築主溝口豪英にのみ送達されているに過ぎず、実質上の建築主の被告人や工事請負人には送達されていないから、それぞれ違法かつ無効なものと解されるのに、これを適法なものとし、右事実につき被告人を有罪とした原判決は法令の解釈、適用を誤つたものであるといい、職権による調査、判断を求めるので検討するに、原判示各証拠及び当審事実取調の結果によれば、所論(1)の本件各建築は、いずれも建築基準法六条一項の確認を受けない違法のものであり、それぞれ当該各工事開始の一ないし二か月後に一般人からの通報等により京都市住宅局建築指導課係員の知るところとなり、同係員において、現場作業員らを介して、直ちに工事を停止するよう行政指導したが、被告人らはこれに従わず、その後も工事を継続していたことが認められ、それぞれの当時の建築進捗状況等に照らして、そのまま放置すれば現に工事中の各建築物の違反の拡大の防止または違反部分の是正が困難となることが予測されたため、それぞれ緊急の措置をとる必要のあつたことが認められ、その要件を欠いている旨の論旨はその前提を欠く。次に、所論(2)にいうところの第二期工事の建築物に対する工事停止命令が、名目上の建築主である溝口豪英に送達されているのみとの点は所論のいうとおりであるが、前示各証拠によれば、同命令は萩森功一を通じて直ちに被告人にも達しており、しかも被告人は当初から違法建築をするについて責任の所在を不明確にしておいて建築を強行するため、右溝口を名義上の建築主に仕立てて市当局との交渉にあたらせていたもので、市当局としては右溝口以外の被告人ら実質的建築主らを知ることができない情況であつたことが明らかであるから、本件工事施工停止命令が右溝口に送達され、同人らを介して被告人にそれが伝達されこれを了知している以上、同命令は実質的建築主である被告人に対し適法有効に発出・送達されたものと認めるのが相当である。けだし、そのように行政当局の取締り規制を免れ、違法建築を強行するため故意に建築主の名義を偽り、これを秘匿しているような場合、行政当局としては、当局に判明しているその建築主を呼称している者を対象に各種の行政処分を命ずるほかないのであつて、それが所論のように真の建築主に当たらず、また、真の建築主には有効な処分及び送達が行われていないとの理由でその効力が及ばないとすれば、右の取締規定の意義は全く失われ、当該違反行為を是認するのと同一の結果となることは明らかであり、法はそのようなことを許容するものではないと解されるからである。

以上のとおりであつて、所論に基づき記録ならびに当審事実取調の結果にかんがみ職権をもつて調査、検討しても、原判示第二の各工事施工停止命令が違法かつ無効のものであるとは解されず、原判決の法令の解釈、適用に所論のような誤りはないから、これを変更する必要を認めない。

控訴趣意第三(量刑不当の主張)について

論旨は、量刑不当を主張し、被告人を懲役六月及び罰金一四〇万円、三年間懲役刑執行猶予に処した原判決の量刑は重きに過ぎた不当なものである、というのである。

そこで所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調の結果をもあわせて検討するに、本件は、不動産取引業者である被告人が、法定の除外事由がないのに、都市計画区域内で、かつ市街化調整区域に指定されている場所に、京都市建築主事の建築確認及び京都市長の許可を受けないで、木造二階建分譲住宅一四戸の建築物を建築し、更にこれらの建築施工に関して京都市長から発せられた各工事施工停止命令に反して工事を継続し、同命令に違反した事案であるが、当初から各建築が違法なものであることを十分認識していながら、計画的に建築主として他人名義を用い、或いは工事請負人の氏名をことさら秘匿するなどして責任の所在を不明にする措置を講じ、工事着工後は京都市住宅局建築指導課の再三の指導及び同市長の工事施工停止命令を無視して各工事を強行したものであつてその法無視の態度は目に余るものがあること、更には本件各建売住宅を一般人に売却して多額の利益を得たうえ、他に売却することによつてこれら違法建築物を事実上除去できない既成事実を作り上げてしまつたことなどの犯情に照らすと、被告人の刑事責任は軽くないから、原判決の懲役六月及び罰金一四〇万円、三年間懲役刑執行猶予の量刑もあながち首肯できなくはない。

しかしながら、被告人には前科、前歴がなく、本件について十分反省し、今後同種犯行に及ばない旨誓約していること、原判示第二の罪について懲役刑を選択科刑することにより、一連の本件各犯行について相応の責任を負わせたと認められることなどをあわせ考えると、右懲役六月(三年間刑執行猶予)の刑のほかに罰金一四〇万円を科した点において、原判決の量刑は重きに失するものと考えられる。論旨は右の限度において理由がある。

よつて、刑訴法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により更に判決することとし、原判決が認定した罪となるべき事実にその挙示する各法条の他、当審における訴訟費用の負担につき同法一八一条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田登良夫 梨岡輝彦 白川清吉)

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